第8回 フクメンの意味の巻
「ただいまー」
かおりちゃんが、学校から帰ってきました。
かおりちゃんはおうちに帰ってきたら、まず一番に御宝前様にあいさつをするのが習慣になっています。今日もいつものように御宝前様のお部屋に行くと、おばあちゃんが御戒壇のお掃除をしているところでした。
「おかえり、かおりちゃん。御宝前様にご挨拶をさせていただくんでしょう?」
「うん」
元気よくおばあちゃんに返事をした後、御宝前様の前にきちんと正座をして無始已来をお唱えしました。
「ねぇ、おばあちゃん」
「なんだい?」
「どうしてお給仕する人はフクメンをしないといけないの?」
「うーん、そうだねぇ……。かおりちゃん、顔をおばあちゃんの顔に近づけてごらん」
かおりちゃんは自分の顔を、フクメンをしているおばあちゃんの顔に近づけました。
「ほら。かおりちゃんにおばあちゃんの息がかからないでしょ」
おばあちゃんがふーっと息を吐いても、おばあちゃんの息はかおりちゃんにはかかりません。
「うん。全然かからないよ」
「フクメンはね、私たちの息が御宝前様にかからないようにさせてもらうためのものなんだよ。お掃除をするときや、お供えをさせていただく時は、必ずさせてもらうんだよ」
「息がかからないようにするんだったら、手で鼻と口を押さえたり、ずーっと息を止めていたらいいんじゃないの?」
かおりちゃんは、両手で鼻と口を押さえて見せます。
「うふふ。そんなことをしたら両手が使えないからお給仕ができないでしょ」
「あ、そうか」
かおりちゃんはペロッと舌を出して恥ずかしそうです。
「片手で鼻と口を押さえたとしても、片手でお給仕するのは失礼にあたるからね。だから、それはしてはいけないことなんだよ。もちろん、息を止めるのもだめなんだよ」
「ふーん、そうなのか。じゃあフクメンがあればお給仕できるの?」
「あと、火打ち石と金口も必要だねぇ。御宝前様のものを触ったときや、お供えをするものには、清めるために切り火をしないといけないからねぇ」
「あの、カチカチっていう、石と金具のやつ?」
おばあちゃんはニッコリ笑いながら頷きます。
「そう。でも音だけじゃなくて、ちゃんと火花がでるようにしないと駄目なんだよ」
「そっか。じゃあ、お給仕にはフクメンと火打ち石、それと金口と火花が必要なんだね」
また一つ、お給仕について勉強したかおりちゃんなのでした。