第24回 御供養の心の巻
最近かおりちゃんは、嬉しいけれどもちょっと不思議なことに気づきました。
それは毎月決まった日に、おばあちゃんがかおりちゃんの好きなお菓子を買って来てくれるということです。
そして今日はその日。
今月も何か買ってきてくれるのかなと、おばあちゃんの帰りを今か今かと待っています。
玄関で「ただいま」というおばあちゃんの声が聞こえました。
「おばあちゃん、お帰り」
玄関まで走って迎えに行くと、おばあちゃんはかおりちゃんの大好きなケーキ屋さんの箱を持っていました。
「わーい!かおり、そこのケーキ大好き!」
かおりちゃんが手を伸ばすと
「だめだよ。先に御宝前様にお供えしてからいただこうね」
と、おばあちゃんは言いました。
おばあちゃんは御宝前様用のお皿に一番おいしそうなケーキをのせ、切り火をしてから御宝前様に御供えしました。
かおりちゃんのお家では、炊きたてのご飯も、おいしそうなお菓子も果物も、まず御宝前様に御供えしてからみんなでいただきます。
おばあちゃんがふくめんをはずしたところで、かおりちゃんは話しかけました。
「ねぇ、おばあちゃん。どうして毎月同じ日にかおりの好きなものを買ってきてくれるの?」
おばあちゃんはちょっと目を伏せた後、御宝前様を見ながら話し始めました。
「かおりは、昔、お父さんに妹がいたお話を知ってるかな?」
かおりちゃんは首を横に振ります。
「おばあちゃんの子供なんだけどね、12才の時に病気にかかってしまってねぇ。昔はそんなにお医者さんがしっかりしていなくて、今なら治せる病気が治せなかったりしたんだよ」
「病気が治らなかったの?」
おばあちゃんは黙って頷きました。
「お菓子が食べたいってよく言ってたんだけど昔は今みたいにお菓子がなくて、あんまり食べさせてあげられなかったんだよ。おばあちゃんはそれが心残りで落ち込んだ日が続いてねぇ。そんなとき、御導師が仏様のお話をしてくださってね……」
かおりちゃんは黙っておばあちゃんのお話の続きを聞きました。
「昔、修行の末に神通力を身に付けた方がいらして、亡くなったお母さんが今どうされているか見てみたんだよ。そしたらお母さんは餓鬼界といういつもお腹を空かせている人の世界にいて食べ物が食べられなかったんだよ。そこで神通力を使って食べ物をお母さんに食べさせようとしたんだけど、目の前で食べ物は火になってお母さんは食べることが出来なかったんだよ。そこで、仏様になんとかしたいとご相談に行くと、仏様は『亡くなった方に食べさせたいのなら、周りにいる人に食べ物を供養しなさい。するとその功徳がお母さんの所に回って、お母さんは空腹を満たすことが出来る』と教えてくださった。それを聞いて早速、修行中の方に食べ物を供養され、その結果お母さんは餓鬼界から抜け出せたということなんだ」
おばあちゃんはため息を一つついて、続けました。
「こんな暗い話しをしてごめんね。おばあちゃんはかおりが喜んでお菓子を食べるのを見ると、あの子が喜んで食べてくれている気がして……。それでこの子の命日にいつもお菓子を買ってくるんだよ」
おばあちゃんは照れたように笑いながら言いました。
「ううん。かおり、おばあちゃんの買ってきてくれるお菓子がどうして一番美味しいかその理由がわかったよ」
その言葉を聞いておばあちゃんは嬉しそうに、にっこりと笑いました。