第15回 最初と最後は「むしいらい」の巻
「ただいまー」
かおりちゃんはおうちに帰ってくると、小さい時からみんなから教えられているように、必ず御宝前様にご挨拶に行きます。
「無始已来謗法罪障消滅……」
いつものように、御宝前様にご挨拶をしている時、かおりちゃんの頭に、ある疑問がよぎりました。
「あれ?いつも『無始已来』って唱えてるけど、どんな意味があるのかなぁ?学校に行く時も、家に帰ってきた時も、お寺でのお参りの時にも唱えてるけど……」
ご挨拶が終わると、かおりちゃんはおばあちゃんのところに走っていきました。
「ねぇ、おばあちゃん。いつも御宝前様に『無始已来』を唱えるけど、どうして『いってきます』や『ただいま』みたいに別の言葉を言わなくていいの?」
おばあちゃんはニッコリと笑ってこう言いました。
「かおりもおばあちゃんも、生まれる前のことは何にも覚えていないよねぇ」
「うん」
「無始已来にはこんな意味があるんだよ」
そう言っておばあちゃんは、かおりちゃんにこう説明してくれました。
「ひょっとしたらおばあちゃんは、前世では泥棒で人の物を盗んでいたかも知れないし、人に困ることをしていたかも知れない。でも本人は全然覚えていなくて、何も考えずに毎日を過ごしているけれど、でもね、魂の中には悪いことをした記録がちゃんと残っているんだよ」
「魂の中?」
「そう。それを【罪障】って言うんだよ。この【罪障】というのがあると、大事な時にうまくいかなかったりして、いつまでも良い方向に進めないんだよ」
「悪いことが全部記録されているの?」
かおりちゃんは、あんな事やこんな事も全部記録されているのかと思い、ちょっと不安になりました。
「でもね、この本門佛立宗のご信心に出会って、【南無妙法蓮華経】とお唱えすることで、この【罪障】を消滅することができるんだよ」
「そっか。良かったぁ」
かおりちゃんはホッと胸をなで下ろしました。
「でもね、もらうばかりじゃダメなんだよ。かおりもプレゼントをもらったらお礼をするでしょう?」
「うん」
「【罪障消滅】の方法を教えていただいたお礼に他の信心をしないでお題目をお唱えさせていただきます、そしてこの信心を沢山の人にお勧めしますとお誓いの言葉が【無始已来】の文章になるんだよ」
「へぇー、そんな意味があったんだ。それじゃあ、どうしていつも【無始已来】をお唱えするの?」
「かおりはお正月にたてた今年の目標を覚えてるかな?」
おばあちゃんにそう言われてかおりちゃんはハッとしました。お正月に目標を作ったことすら忘れていたからです。
「人間ってね、忘れやすい生き物なんだよ。だから御宝前様の前に座ったら、このお誓いと感謝の心を忘れないように、いつも【無始已来】をお唱えしているんだよ」
「うん、よくわかった」
今までただ唱えていた無始已来ですが、ご信心に大切な気持ちをお唱えしていたんだなぁと思ったかおりちゃんでした。