第11回 病気と御供水の巻
ゴホン、ゴホン。
かおりちゃんのお母さんが、ひどい風邪をひいてしまいました。
お母さんは高い熱が出て、喉がすごく腫れてご飯も食べられないぐらいひどい風邪です。
かおりちゃんは心配で心配で仕方がありません。
「ただいまー。お母さん、大丈夫?」
かおりちゃんが学校から帰ってきました。
すぐに洗面所に駆け込んで手を洗ってうがいをし、それからすぐにお母さんが寝ている部屋へと飛んでいきました。
お母さんはまだ熱が下がらず、とてもしんどそうです。
「かおり、悪いけど御宝前様のお部屋に行って御供水をもらってきてくれる?」
しわがれた声でお母さんが言いました。
「うん、わかった。待っててね」
かおりちゃんは急いで御宝前様のお部屋へと行きました。
かおりちゃんのおうちでは、お寺でいただいた御供水を容器に入れて、御宝前様にお供えさせていただいているのです。
「えー、御宝前様の物を触る時にはちゃんとフクメンをして……」
以前、おばあちゃんに教わったことをかおりちゃんはちゃんと覚えていました。
かおりちゃんはフクメンをして御供水をコップに移し、御供水を元の位置に戻してから切り火をしました。
かおりちゃんはコップの御供水をこぼさないようにと気をつけながら、お母さんの寝ている部屋へと行きました。
「はい、お母さん。御供水だよ」
「ありがとう。ちゃんとフクメンをしていただいてきてくれたのね」
かおりちゃんは急いでお母さんのところに戻ったのでフクメンをしたままでした。
「早く風邪が治りますように、南無妙法蓮華経……」
そう言って、お母さんはゆっくりと御供水をいただきました。
喉がすごく腫れているお母さんですが、不思議なことに御供水はすーっと喉を通るようです。
「おかあさん、喉は大丈夫?何か薬持ってこようか?」
「大丈夫よ。なんといっても、御供水は御宝前様からいただいた、一番治るお薬なんだから」
「御宝前様からいただいた薬なの?」
「そうよ。御宝前様にお供えして、御看経をさせていただくでしょ。そうするとお題目のすごい力が御供水の中に入って、どんな病気も治してくれるありがたい御宝前様のお薬になるのよ」
「へぇー、本当?」
「本当よ。かおりも小さいときに沢山病気をしたけれど、御供水を沢山いただいたから、こうして元気な子になったんだから」
「じゃあ、お母さんも御供水をたくさん頂いたら早く良くなるの?」
「そうよ。今も御供水をいただいたから、喉の痛みが少しましになってきたわ」
「それならもう一度御供水をいただいてくるね」
そう言ってかおりちゃんは御宝前様のお部屋にとんでいき、御供水をいただいてきました。
「はい、お母さん。御供水」
「ありがとう」
「お母さんの風邪が早く良くなりますように。南無妙法蓮華経……」
お母さんは嬉しそうに、ゆっくりと御供水をいただきました。
明日の朝には、またいつも通りのお母さんが台所に立っていることでしょう。